なぜ、今のディーゼルエンジンはこんなに複雑になったの?

こんにちは。
井野口自動車整備工場の井野口です。
前回までの【現場ドキュメント】では、東京からご相談いただいたパッカー車のDPDマフラートラブルについて、4回にわたってご紹介しました。
その中で、
DPD・DPF・DPRマフラー。
インジェクター。
排気シャッターバルブ。
いろいろな部品や装置の名前が出てきました。
普段からディーゼル車に関わっている方なら、聞いたことがある言葉かもしれません。
でも、
「DPFって、そもそも何?」
「昔のトラックには、こんなにいろいろ付いていたっけ?」
「なんで今のディーゼル車は、こんなに複雑なの?」
そう思う方もいるのではないでしょうか。
そこで今回から、
「現代のディーゼルエンジンって、どうなっているの?」
というところを、できるだけ難しい言葉を使わずにお話ししていきたいと思います。
■ 昔のディーゼルエンジンは、もっとシンプルでした。
昔のディーゼルエンジンは、現在と比べると、とてもシンプルな構造でした。
空気を吸って、
燃料を噴射して、
エンジンの中で燃やして、
発生した排気ガスをマフラーから外へ出す。
もちろん実際にはもっと複雑ですが、大きく考えればこのような仕組みです。
ところが、現在のディーゼルエンジンを見ると、たくさんのセンサーや装置が付いています。
さらに、それらをコンピューターで細かく制御しています。
なぜ、ここまで複雑になったのでしょうか?
■ 大きな理由は「排気ガスをきれいにするため」
ディーゼルエンジンは、
力が強く、
燃費が良く、
トラックやパッカー車などの「働く車」に適したエンジンです。
一方で、燃料を燃やせば排気ガスが発生します。
その中には、
ススなどの粒子状物質(PM)や、窒素酸化物(NOx)
と呼ばれる、大気汚染につながる物質も含まれています。
そこで、環境や人の健康を守るため、ディーゼル車に対する排気ガス規制が段階的に厳しくなってきました。
自動車メーカーは、
「ディーゼルエンジンの良さを残しながら、どうやって排気ガスをきれいにするか?」
という課題に取り組んできました。
その結果、
昔からあった技術は、より精密に進化し、
さらに新しい排気ガス浄化装置も追加されていきました。
これが、現在のディーゼルエンジンが複雑になった大きな理由の一つです。
■ インジェクターも大きく進化しました。
例えば、インジェクター。
インジェクターは、燃料をエンジンの中へ噴射する部品です。
実は、インジェクターそのものは昔のディーゼルエンジンにも使われていました。
大きく変わったのは、
燃料を噴射する仕組みと、その精密さです。
昔のディーゼルエンジンでは、機械的な仕組みで燃料を噴射する方式が主流でした。
現在では、コンピューターによって燃料を噴射する量やタイミングなどを細かく調整する、電子制御式の精密なインジェクターへと進化しています。
燃料を細かな霧状にして、必要な量を、必要なタイミングで噴射する。
そうすることで燃料をより効率よく燃やし、排気ガスに含まれるススなどを減らすことにもつながっています。
つまりインジェクターは、
昔からある部品だけれど、排気ガスをきれいにするためにも大きく進化してきた部品
なのです。

■ 排気ガスをきれいにする装置も増えました。
インジェクターの進化だけではありません。
現在のディーゼル車には、排気ガスをきれいにするためのさまざまな装置が使われています。
例えば、
EGR(排気ガス再循環装置)
排気ガスの一部を、もう一度エンジンの吸入側へ戻す仕組みです。
「排気ガスを、なんでまたエンジンに戻すの?」
と思いますよね。
もちろん、これにもちゃんと理由があります。
詳しい仕組みについては、今後の記事でお話しします。
そして、
DPD・DPF・DPRマフラー。
メーカーによって呼び方は違いますが、排気ガスに含まれるススなどを捕まえ、一定量たまると高温で燃やして減らす装置です。
さらに、
SCR。
尿素水を使って、排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を減らすための装置です。
こうしたさまざまな技術を組み合わせることで、現在のディーゼル車は排気ガスをできるだけきれいにして外へ出しています。
■ 排気ガスがきれいになった一方で、仕組みは複雑になりました。
昔のディーゼル車と比べると、現在のディーゼル車は環境性能が大きく向上しました。
これは、自動車メーカーが長い年月をかけて技術開発を続けてきた結果です。
ただ、その一方で、
エンジンや排気ガス浄化の仕組みは複雑になりました。
インジェクター。
EGR。
DPD・DPF・DPRマフラー。
SCR。
さまざまなセンサー。
そして、それらを制御するコンピューター。
それぞれが、まったく別々に働いているわけではありません。
燃料を噴射し、燃焼させ、排気ガスをきれいにして外へ出すまで、それぞれの装置が互いに関係しながら働いています。
そのため、一つの装置に不具合が起きると、別の装置にも影響することがあります。
ここが、現代のディーゼルエンジンを理解するうえで、とても大切なところです。
■ 一つの不調が、別の場所にも影響します。
例えば、インジェクターの調子が悪くなったとします。
燃料を正常に噴射できなくなり、燃焼状態が悪くなる。
すると、ススが増えることがあります。
増えたススは、DPD・DPF・DPRマフラーへ送られます。
当然、マフラー側の負担も大きくなります。
つまり、
「マフラーが詰まったから、マフラーだけ交換すれば直る」
とは限らないのです。
マフラーに起きているトラブルが、
別の場所で起きている不調の「結果」
であることもあります。
だからこそ、これからの整備では、
壊れた部品だけを見るのではなく、その原因まで含めて車全体を診ること。
これが、ますます重要になってくると私は考えています。
■ 全部の仕組みを覚える必要はありません。
ここまで読んで、
「やっぱり今のディーゼル車って難しいな……」
と思った方もいるかもしれません(笑)。
でも、パッカー車を使用している皆さんが、すべての構造や仕組みを覚える必要はありません。
私は、
「この部品は、何のために付いているのか?」
それを少し知ってもらうだけでも十分だと思っています。
役割が少し分かっていれば、
警告灯が点いた。
マフラー再生の回数が増えた。
再生に時間がかかるようになった。
エンジンの力が以前よりない。
いつもと何か違う。
そんなとき、
「何かがおかしいのかもしれない。」
と早く気づくきっかけになります。
そして早く気づくことができれば、大きな故障になる前に点検できる可能性があります。
車の仕組みを少し知ることは、壊れる前に気づくための第一歩。
私はそう考えています。
■ 次回は「DPD・DPF・DPRマフラー」について
次回は、今回の【現場ドキュメント】でも登場した、
DPD・DPF・DPRマフラー
について、もう少し詳しくお話しします。
名前は違うけれど、何が違うの?
そもそも、何をしている装置なの?
どうやってススを捕まえるの?
「マフラー再生」って何をしているの?
そして、
なぜパッカー車では、DPD・DPF・DPRマフラーのトラブルが起こりやすいのか?
できるだけ難しい言葉を使わず、一つずつお話ししてみたいと思います。
仕組みが分かると、故障の見え方も少し変わります。
ぜひ次回もご覧ください。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。