現代ディーゼルエンジンを「健康な状態」に保つために

こんにちは。
井野口自動車整備工場の井野口です。
ここまで5回にわたって、現代のディーゼルエンジンについて、できるだけ難しい言葉を使わずにお話ししてきました。
今回は番外編です。
いつもより少しだけ、
マニアックな話に踏み込みます。
コモンレール。
燃圧。
噴射補正値。
デポジット。
ターボチャージャー。
難しそうな言葉が並びますが、一つひとつ、できるだけ分かりやすくお話しします。
なぜ、ここまで踏み込んでお伝えしたいのか。
それは、現代のディーゼルエンジンでは、
「壊れたら直す」だけではなく、「良い状態をできるだけ長く維持する」
という考え方が、とても大切になっていると感じているからです。
仕組みをすべて覚えていただく必要はありません。
「なぜ燃料系を良い状態に保つことが大切なのか?」
その理由を少しだけ知っていただけたらと思います。
■ 昔のディーゼルエンジンとは、大きく変わりました
昔のディーゼルエンジンと比べて、現在のディーゼルエンジンはとても複雑になりました。
排気ガスをできるだけきれいにする。
燃費を良くする。
それでいて、仕事に必要な力を出す。
こうしたさまざまな要求に応えるため、ディーゼルエンジンは進化してきました。
その一つが、
エンジンのダウンサイジング
です。
より小さなエンジンで、燃費や排気ガスにも配慮しながら必要な力を出す。
しかし、トラックやパッカー車は働く車です。
エンジンを小さくしても、仕事をするために必要な力まで小さくすることはできません。
そこで重要な役割を担っているのが、
ターボチャージャー
です。
■ 小さなエンジンで力を出す「ターボチャージャー」
ターボチャージャーは、エンジンから排出される排気ガスの力を利用してタービンを回し、より多くの空気をエンジンへ送り込む装置です。
より多くの空気を送り込むことで、小さなエンジンでも必要な力を出せるようにしています。
ターボチャージャー自体は、昔から使われている技術です。
しかし現代のディーゼルエンジンでは、燃費、出力、排気ガスなど、さまざまな要求を同時に満たすため、ターボチャージャーにも、より高度な働きが求められるようになっています。
つまり、
エンジンが小さくなっても、求められる仕事まで小さくなったわけではありません。
一つひとつの部品が、より精密に働くようになっているのです。
■ ターボの不調も、排気ガスに影響します
ターボチャージャーは、単にエンジンの力を出すためだけの部品ではありません。
故障の仕方によっては、エンジンの燃焼状態や排気ガスにも大きな影響を与えます。
例えば、ターボが正常に空気を送り込めなくなると、
エンジンへ送られる空気が不足する
↓
燃料とのバランスが崩れる
↓
燃焼状態が悪くなる
↓
黒煙やススが増える
↓
DPD・DPF・DPRマフラーへの負担が増える
ということも考えられます。
また、ターボ内部からエンジンオイルが吸入側や排気側へ漏れるような故障では、そのオイルが燃焼したり排気側へ流れたりすることで、
DPD・DPF・DPRマフラーなどの排気ガス浄化装置や、EGR(排気ガス再循環装置)にも悪影響を与える可能性があります。
ターボチャージャーも、
現代ディーゼルエンジンの排気ガスを考えるうえで、無視できない部品の一つ
なのです。
■ そして、もう一つ高度化したのが「燃料系」
現代のディーゼルエンジンでもう一つ大きく変わったのが、
燃料をエンジンへ噴射する仕組み
です。
第3話でお話ししたインジェクターですね。
ディーゼルエンジンは、エンジンの中に取り込んだ空気を強く圧縮します。
そして、圧縮されて高温になった空気が入っている燃焼室の中へ、軽油を細かな霧状にして噴射します。
そのためには、高い燃料圧力が必要です。
さらに、
必要な量を、
必要なタイミングで、
できるだけ細かな霧状にして噴射する。
非常に精密な制御が求められています。
そこで重要になるのが、
コモンレール
という仕組みです。
■ コモンレールって何?
名前だけ聞くと難しそうですが、考え方はそれほど難しくありません。
燃料タンクから送られてきた軽油は、高圧ポンプによって非常に高い圧力まで高められます。
その高圧になった燃料を一度蓄えておく場所が、
コモンレール
です。
そこから各インジェクターへ、高圧になった燃料を分配します。
簡単に言えば、
高い圧力をかけた燃料を一度蓄え、各インジェクターへ分配するための仕組み
です。
そして、この燃料にかかっている圧力を、
「燃圧」
と呼びます。
■ なぜ、そんなに高い「燃圧」が必要なの?
ディーゼルエンジンでは、強く圧縮された空気が入っている燃焼室の中へ、軽油を細かな霧状にして噴射しなければなりません。
圧縮された燃焼室の中へ、燃料を細かな霧状にして噴射するために、高い燃圧が必要なのです。
そして現代のディーゼルエンジンでは、昔と比べて燃圧が非常に高くなっています。
高い圧力を使って燃料を細かな霧状にし、コンピューターによって噴射量や噴射するタイミングを細かく制御する。
それによって、できるだけ良い燃焼状態をつくっています。
燃料をきれいに燃やすことができれば、エンジンの力を効率よく取り出すことができ、黒煙やススなどを減らすことにもつながります。
だからこそ、現代の燃料系には非常に高い精密さが求められています。

■ 「噴射補正値」から分かること
故障診断機を使って確認する情報の一つに、
噴射補正値
があります。
例えば、4本のインジェクターが付いているエンジンがあったとします。
4本すべてが、まったく同じ状態で燃料を噴射しているとは限りません。
そこでコンピューターは、エンジンができるだけバランス良く回転するように、それぞれの気筒に対する燃料噴射を調整しています。
簡単に言えば、
「この気筒は少し増やそう」
「こちらは少し減らそう」
というような調整です。
その調整の状態を診断するときの手掛かりの一つが、
噴射補正値
です。
噴射補正値を確認することで、インジェクターや燃焼状態を判断するためのヒントになります。
ただし、
噴射補正値だけで、すべての故障を判断できるわけではありません。
他のデータや実際の症状なども含めて、総合的に診断することが大切です。
■ 高い燃圧だからこそ知っておきたい「デポジット」
そして、ここからが現代のディーゼルエンジンで知っていただきたいところです。
高い圧力で噴射するためにつくられた燃料は、すべてが燃焼室で使われるわけではありません。
使われなかった燃料は、リターン側を通って燃料タンクへ戻っていきます。
その過程で、
高圧になった軽油が、再び常圧へ戻ります。
この高圧から常圧へ戻る過程で発生する黒い汚れが、
「デポジット」
です。
以前のブログでもご紹介しましたが、実際に燃料フィルターを交換すると、真っ黒に汚れている車両を見ることがあります。
そして、このデポジットが現代の精密な燃料系にとって、厄介な存在になります。
■ デポジットがインジェクターを傷める
現代のインジェクターは、非常に精密につくられています。
そこへデポジットが入り込むと、
インジェクター内部の精密な部分を傷つけたり、詰まりを起こしたりして、正常な燃料噴射ができなくなる原因になります。
すると、
正常な噴射ができなくなる
↓
燃料を理想的な霧状に噴射できなくなる
↓
燃焼状態が悪くなる
↓
黒煙やスス、燃えきらなかった燃料が増える
↓
排気ガス側の装置にも負担がかかる
という流れにつながる可能性があります。
つまり、
燃料系の汚れが、燃料系だけの問題で終わらない
ということです。
■ 燃料系を「健康な状態」に保つ
だから私は、
「インジェクターが壊れたら交換すればいい」
だけではなく、
インジェクターを含めた燃料系を、できるだけ良い状態に保つ
という考え方が大切だと思っています。
これは、人間の健康にも少し似ています。
体調を崩してから治療することは、もちろん大切です。
でも、それだけではありません。
食事に気をつける。
運動する。
睡眠をとる。
定期的に健康状態を確認する。
普段から健康な状態を維持することも大切ですよね。
働く車も同じだと私は考えています。
壊れてから直すことも大切。
でも、壊れにくい状態をつくり、それを維持していくことも大切。
特に毎日仕事で使うパッカー車は、故障すれば車だけの問題では済みません。
車が止まれば、仕事も止まってしまうからです。
■ 燃料系添加剤という選択肢
燃料系を良い状態に保つための方法の一つとして、私たちが提案しているのが、
燃料系添加剤を使った定期的なメンテナンス
です。
弊社では、
燃料系添加剤「リボーン改」
を取り扱っています。
ただし、
「これを入れておけば故障しない」
というものではありません。
燃料系添加剤は、魔法の薬ではありません。
すでに機械的に壊れてしまったインジェクターや燃料ポンプを、添加剤だけで直せるわけでもありません。
あくまでも、
燃料系をできるだけ良い状態に保つための、予防整備の選択肢の一つ
として考えています。
大切なのは、商品そのものではなく、
なぜ燃料系を良い状態に保つ必要があるのか
を知ることだと思っています。
■ 一つの部品だけを見ない
ここまで読んでいただくと、現代のディーゼルエンジンがなぜ複雑なのか、少し見えてきたのではないでしょうか。
インジェクター。
高圧ポンプ。
コモンレール。
ターボチャージャー。
EGR。
DPD・DPF・DPR。
SCR。
それぞれが別々に仕事をしていますが、決して無関係ではありません。
燃料系を良い状態に保つ。
良い燃焼状態を維持する。
エンジンオイルを適切に管理する。
排気ガス浄化装置の状態を見る。
そして故障診断機を使って、車の状態を確認する。
こうしたことを組み合わせながら、
車全体を健康な状態に保っていく。
これが、現代のディーゼルエンジンに必要な整備の考え方ではないかと私は思っています。
■ 「壊れてから直す」から、「健康な状態を長く保つ」へ
整備士の仕事は、壊れた車を直すこと。
もちろん、それはこれからも大切な仕事です。
でも私は、その一歩先まで考えていきたいと思っています。
「どうしたら、この車が壊れずに仕事を続けられるだろう?」
故障してから部品を交換する。
その一歩前で、車の変化に気づく。
さらにその一歩前で、良い状態を維持する。
そんな整備ができれば、
高額な修理費だけでなく、
車が止まる時間。
仕事が止まるリスク。
そして、お客様の信用を失うリスク。
こうしたものも減らしていけるかもしれません。
現代のディーゼルエンジンは、とても複雑になりました。
だからこそ、
「壊れたところを直す」だけではなく、
「健康な状態をできるだけ長く保つ」。
そんな整備を、これからもっと追求していきたいと思っています。
少しマニアックな番外編になりましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。