SCRって何? ― なぜディーゼル車に「尿素水」が必要なの?

こんにちは。
井野口自動車整備工場の井野口です。
ここまで、
DPD・DPF・DPRマフラー
インジェクター
EGR(排気ガス再循環装置)
についてお話ししてきました。
今回は、
SCR
についてお話しします。
「SCRと言われても、よく分からない」
という方でも、
「尿素水」
という言葉なら聞いたことがあるかもしれません。
最近のディーゼル車では、燃料とは別に尿素水を補充する車両が増えています。
では、
なぜディーゼル車に尿素水が必要なのでしょうか?
今回は、できるだけ簡単に説明してみたいと思います。
■ SCRは何をする装置なの?
SCRの大きな役割は、
排気ガスに含まれるNOx(窒素酸化物)を減らすこと
です。
前回のEGRでも、NOxについてお話ししました。
エンジンの燃焼温度が高くなると、NOxが発生しやすくなります。
そこでEGRは、排気ガスの一部をもう一度エンジンの空気の吸入側へ戻し、燃焼温度が上がりすぎるのを抑えることで、NOxの発生を抑えています。
一方、SCRは考え方が少し違います。
エンジンから出てきた排気ガスを、外へ出すまでの途中で処理してNOxを減らす。
そのための装置です。

■ EGRがあるのに、なぜSCRも必要なの?
ここが少し分かりにくいところですよね。
「EGRでNOxを減らしているなら、それだけでいいのでは?」
と思うかもしれません。
ところが、前回お話ししたように、ディーゼルエンジンの燃焼には難しいところがあります。
NOxを減らすために燃焼温度を抑えすぎれば、条件によっては燃焼状態が悪くなり、ススが増えることがあります。
反対に、燃料をしっかり燃やそうとすると燃焼温度が高くなり、NOxが増えやすくなります。
そこで、エンジンの中だけですべてを解決しようとするのではなく、
エンジンから出た後の排気ガスもきれいにする。
その役割の一つを担っているのがSCRです。
■ そこで登場するのが「尿素水」
SCRでNOxを減らすために使われるのが、
尿素水
です。
車両には燃料タンクとは別に尿素水を入れるタンクがあります。
尿素水は、排気ガスが流れている途中へ適切な量が噴射されます。
排気ガスの熱によって尿素水からアンモニアが生成され、それがSCRの触媒の中でNOxと反応します。
その結果、NOxを主に、
窒素と水
へ変えて排出します。
窒素は、もともと私たちが吸っている空気にも多く含まれているものです。
つまりSCRは、
尿素水を利用して、排気ガスに含まれるNOxを害の少ないものへ変えてから外へ出す装置
と考えると分かりやすいと思います。
■ 尿素水は「燃料」ではありません
ここも勘違いされやすいところです。
尿素水は、エンジンを動かすための燃料ではありません。
エンジンを動かすのは軽油です。
尿素水は、
エンジンから出た排気ガスをきれいにするために使われるもの
です。
ですから、
軽油 → エンジンを動かすため
尿素水 → 排気ガスをきれいにするため
と考えると、分かりやすいと思います。
■ 尿素水は「どこに入れるの?」
尿素水を入れる場所は、
尿素水専用タンク
です。
軽油を入れる燃料タンクとは別に、SCR付きの車両には尿素水専用のタンクが付いています。
車種によって位置は違いますが、タンクキャップに
「AdBlue」
「尿素水」
「DEF」
などと表示されていることがあります。
つまり、
尿素水は、尿素水専用タンクへ入れる。
これが基本です。
反対に、
作動油タンクへ入れてはいけません。
ここは本当に注意が必要です。

■ 実際にあった「入れ間違い」
少し話はそれますが、弊社のお客様で実際にあった話です。
これまでに2件、
パッカー車の作動油タンクの中に、尿素水(アドブルー)を補給してしまった
ということがありました。
パッカー車には、
SCR用の尿素水タンク と、
荷箱や積込装置を動かすための作動油タンク
があります。
どちらも「液体を補充するタンク」なので、慣れていないと間違えてしまうことがあります。
ですが、中に入れるものはまったく別です。
尿素水は、SCRで排気ガスをきれいにするためのもの。
作動油は、パッカー車の油圧装置を動かすための油です。
そのため、作動油タンクの中に尿素水が入ってしまうと、
パッカー車の油圧装置が正常に作動しなくなったり、誤作動を起こしたりする原因になります。
場合によっては、ポンプやバルブなどのトラブルにつながる可能性もあります。
もし間違えて入れてしまった場合は、
そのままパッカー装置を動かさず、できるだけ早く整備工場へ相談してください。
■ 尿素水を入れておけば、それで終わりではありません
SCRも、尿素水を補充していれば絶対にトラブルが起きないというわけではありません。
尿素水を噴射する部分。
排気ガスの状態を監視するセンサー。
尿素水を送るための装置。
SCRの触媒。
そして、それらを制御するコンピューター。
いろいろな部品が関係しています。
そのため、どこかに不具合が起きると、
警告灯が点灯したり、出力が制限されたりすることがあります。
車種や故障の状態によっては、そのまま使い続けることが難しくなる場合もあります。
だから、
「尿素水が入っているから大丈夫」
ではなく、警告表示や普段との違いに気づくことが大切です。
■ ここまで来ると、全部がつながって見えてきます
第1話から読んでくださった方は、現代のディーゼルエンジンがなぜ複雑なのか、少し見えてきたのではないでしょうか。
まず、
インジェクター。
燃料を細かな霧状にして噴射し、できるだけ良い燃焼状態をつくる。
次に、
EGR。
排気ガスの一部を空気の吸入側へ戻して、NOxの発生を抑える。
そして、
DPD・DPF・DPR。
排気ガスに含まれるススを捕まえ、再生によって燃やして減らす。
さらに、
SCR。
尿素水を使って、排気ガスに含まれるNOxを減らす。
それぞれ違う仕事をしています。
でも、すべてがバラバラに存在しているわけではありません。
燃料を噴射する。
燃やす。
排気ガスが出る。
その排気ガスをできるだけきれいにして外へ出す。
この一連の流れの中で、それぞれの装置が役割を担っています。
■ だから「警告灯が点いた部品」だけを見ない
これが今回のシリーズで、私が一番伝えたかったことかもしれません。
例えば、DPD・DPF・DPRマフラーの警告が出たとします。
だからといって、
「マフラーが悪い。マフラーを交換すれば終わり」
とは限りません。
インジェクターの噴射状態が悪く、ススが増えているのかもしれない。
EGRが正常に働いていないのかもしれない。
センサーや、そのほかの装置に原因があるかもしれない。
現代のディーゼルエンジンでは、さまざまな装置が関係し合っています。
だからこそ、
「どこが壊れたか」だけではなく、
「なぜ、そこに不具合が起きたのか」まで診る。
これからの整備では、この考え方がますます重要になってくると私は思っています。
■ 難しい仕組みを、全部覚える必要はありません
ここまで5回にわたって現代のディーゼルエンジンについてお話ししてきました。
DPD。
DPF。
DPR。
インジェクター。
EGR。
SCR。
横文字ばかりですよね(笑)。
普段パッカー車を使っている皆さんが、これらの構造をすべて詳しく覚える必要はないと思っています。
ただ、
「この装置は、何のために付いているのか」
そこだけでも少し知っていただきたいのです。
仕組みが少し分かれば、
「最近、マフラー再生が多いな」
「警告灯が点いた」
「エンジンの力が以前と違う」
「いつもと音が違う」
そんな小さな変化に気づいたとき、
「まだ動くから大丈夫」ではなく、「一度診てもらおうかな」
という判断につながるかもしれません。
その小さな気づきが、大きな故障を防ぐことにつながる。
私はそう考えています。
■ 基礎編はここまで。でも、もう少しお話ししたいことがあります。
今回で、
「現代ディーゼルエンジンを知ろう!」基礎編
はいったん一区切りです。
でも、ここまで書いてきて、もう少しお伝えしたいことがあります。
それが、
「現代ディーゼルエンジンの燃料系を、健康な状態に保つ」
という考え方です。
インジェクターについてお話しした第3話では、あえて詳しく触れなかった、
コモンレールとは?
燃圧とは?
噴射補正値とは?
デポジットとは?
こうした話があります。
少し専門的に聞こえる言葉ですが、実はこれらを知ると、
なぜ現代のディーゼルエンジンでは、燃料系を良い状態に保つことが大切なのか
が、より分かりやすくなります。
そして、
「壊れてから直す」だけではなく、
「良い状態をできるだけ長く維持する」
という整備の考え方にもつながっていきます。
次回は【番外編】として、
「現代ディーゼルエンジンの燃料系を健康に保つ」
というテーマで、もう一歩だけ踏み込んでみたいと思います。
難しい専門用語の説明ではなく、
「なるほど。だから燃料系のメンテナンスが大切なのか!」
と思っていただける記事にしたいと思います。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。