こんにちは。塵芥車(パッカー車)専門の整備士、井野口です。
前回の記事では、燃料に潜む黒いカス=デポジットがインジェクターを早期に故障させる原因であることをお伝えしました。
今回はその延長線上で、DPDマフラー(ディーゼル微粒子捕集マフラー) に起こるトラブルについて解説します。
■ DPD・DPF・DPRマフラーとは?
この装置はメーカーによって呼び方が異なりますが、基本的な機能は同じです。
- DPF(Diesel Particulate Filter):三菱ふそう・日産・マツダなどで使用
- DPR(Diesel Particulate Active Reduction System):トヨタ・日野などで使用
- DPD(Diesel Particulate Defuser / Diffuser):いすゞで使用
いずれも「排気ガスに含まれる黒煙(PM=粒子状物質)を捕集し、定期的に燃焼して浄化する装置」です。
塵芥車は、
- ストップ&ゴーの多い街乗り走行
- PTO切り替えによる長時間作業
といった特殊な条件が重なるため、DPDにとって非常に過酷な環境です。
結果として、DPDトラブルは塵芥車ユーザーにとって“避けて通れない課題”になっています。
■ DPDが詰まるメカニズム
インジェクターが正常なら、燃料は霧状に噴射されてきれいに燃焼(完全燃焼)します。
しかしインジェクターが不調になると燃焼が不完全になり、黒煙(スス)が増加します。
この黒煙がDPDマフラーに大量に蓄積すると、やがて再生(燃焼処理)が追いつかなくなり、DPDマフラー内のフィルターが詰まってしまいます。
結果として…
- 警告ランプ点灯
- 出力制限(パワーダウン)
- 走行不能
といった深刻なトラブルに発展します。
■ 悪循環が始まる!
ここで厄介なのは、DPDマフラーとインジェクターが“お互いに悪影響”を及ぼす関係にあることです。
- インジェクター不良 → 黒煙増加 → DPD詰まりやすい
- DPD詰まり → エンジン制御がインジェクターを無理に調整 → インジェクターに過大負担 → さらに不良
つまり、どちらか片方を直しても、もう片方が原因で再び故障する…という悪循環に陥りやすいのです。
だから、DPDマフラーとインジェクターは同時交換が必須です。
現場でもよくあるのは、インジェクターだけを交換したケース。
数カ月は調子が良いのに、DPDマフラーが詰まったままなので負担がかかり、すぐにインジェクターが再故障…。
逆にDPDだけを交換しても、インジェクターが不調ならまた黒煙を出してDPDが詰まる。
これを知らないと「何度も高額な修理を繰り返す」という負のスパイラルに陥ってしまいます。

■ メーカーの想定外だった「燃えない灰」
各自動車メーカーは開発当初、DPDマフラーは「メンテナンス不要」と考えていました。
捕集された黒煙(スス)は自動再生・手動再生で燃焼できるため、半永久的に使えるはずだと想定されていたのです。
しかし現実には、DPDは現代ディーゼルエンジンの故障原因ワースト3に入るほどのトラブル要因となっています。
その想定を狂わせたのが――燃えない灰=アッシュの存在でした。
■ 燃えない灰=アッシュの存在
アッシュは「再生燃焼しても消えない灰」であり、確実にDPDマフラー内部に蓄積します。
アッシュが発生する仕組み
- エンジンオイル由来:オイル添加剤(金属系のカルシウム・マグネシウム・リン・硫黄など)が燃え残って灰になる
- 燃料由来:軽油中の不純物や添加剤が燃え残る
- エンジン摩耗由来:摩耗した金属粉が排気に混ざりDPDに堆積
ススとの違い
- スス(黒煙の粒子):再生燃焼で燃やせる
- アッシュ(燃えない灰):燃やしても消えない → DPD内部に残り続ける
問題点
アッシュは絶対に燃えず、蓄積していく一方です。
その結果、DPDの通路が狭まり、排気圧が上昇 → 燃費悪化・出力低下・DPDの寿命短縮につながります。
だからこそ、数万kmごとに専用の薬液洗浄や加熱処理で取り除く必要があるのです。

【アッシュ】
■ 予防と対策
- インジェクターの健康を保つこと(第1回で解説したインジェクタークリーニング)。
- DPDの定期洗浄を計画的に行うこと(5〜10万kmが目安)。
- アッシュを減らすオイルを選ぶこと(→次回解説する「アッシュフリーオイル」)。
この3つを組み合わせることで、悪循環を断ち切り、安定した稼働を維持できます。
まとめ
DPDマフラーは、環境性能の要であると同時に、塵芥車にとって大きな弱点にもなり得ます。
- インジェクター不良 → 黒煙増加 → DPD詰まり
- アッシュ堆積 → 定期洗浄が不可欠
- DPD詰まり → インジェクター故障
この悪循環を断ち切るためには、インジェクターとDPDをセットで予防・整備することが不可欠です。
「壊れてから直す」のではなく、
壊れる前に守る整備が、ユーザーの利益とお客様からの信用を守ることにつながります。
👉 次回予告:
「灰が出ないオイル!?DPF寿命を延ばす新しい選択」
次回は 出光アッシュフリーオイル の特長と効果について解説します。