インジェクターって何? ― 燃料の「噴射」がエンジンの調子を左右する

こんにちは。
井野口自動車整備工場の井野口です。
前回は、DPD・DPF・DPRマフラーについてお話ししました。
排気ガスに含まれるススを捕まえ、たまったススを高温で燃やして減らす。
現代のディーゼル車にとって、とても重要な排気ガス浄化装置です。
今回は、そのマフラーよりもさらに前。
エンジンの中で燃料を噴射する、
「インジェクター」
についてお話しします。
インジェクターは小さな部品ですが、現代のディーゼルエンジンの燃焼状態を左右する、とても重要な部品です。
■ インジェクターって何?
インジェクターの仕事を簡単に言えば、
燃料である軽油を、エンジンの中へ細かな霧状にして噴射すること
です。
ディーゼルエンジンは、エンジンの中に取り込んだ空気を強く圧縮します。
空気は圧縮されることで高温になり、そこへインジェクターから燃料を噴射することで燃焼が起こります。
そのためインジェクターには、
必要な量の燃料を、
必要なタイミングで、
細かな霧状にして噴射する
という、とても重要な仕事があります。

■ インジェクターは昔から使われています
インジェクターという部品は、最近になって登場したものではありません。
昔のディーゼルエンジンにも使われていました。
ただし、昔と現在では大きく違うところがあります。
それが、
燃料を噴射する圧力と、その制御の精密さです。
昔のディーゼルエンジンでは、機械的な仕組みによって燃料を噴射する方式が主流でした。
現在では、コンピューターによって燃料の噴射量や噴射するタイミングなどを細かく制御する、電子制御式の精密なインジェクターへと進化しています。
さらに、圧縮された空気の中へ燃料を細かな霧状にして噴射するため、燃料を噴射する圧力も昔と比べて高くなっています。
つまり、
インジェクターは昔からある。
でも、その仕事は昔よりはるかに精密になっている。
ということです。
■ なぜ、そこまで精密に噴射する必要があるの?
大きな理由の一つは、
燃料をできるだけきれいに燃やすためです。
エンジンの中に取り込まれた空気に対して、適切な量の燃料を噴射する。
そして、その燃料をできるだけ細かな霧状にして噴射する。
この両方が大切です。
燃料の量が適切でなかったり、きれいな霧状に噴射できなかったりすると、燃料がうまく燃えきらないことがあります。
すると、
黒煙やススが増えたり、燃えきらなかった燃料が排気ガスに混じったりする原因になります。
だからこそ、現在のディーゼルエンジンでは、燃料をどのように噴射するかが非常に重要なのです。

■ インジェクターの調子が悪くなると?
インジェクターが正常に燃料を噴射できなくなると、さまざまな症状につながることがあります。
例えば、
- エンジンの調子が悪い
- エンジンの力がない
- エンジン音や振動がいつもと違う
- 燃費が悪くなる
- 黒煙やススが増える
などです。
そして、現代のディーゼルエンジンで重要なのは、
インジェクターだけの問題では終わらないことがある
ということです。
■ インジェクターとDPD・DPF・DPRはつながっています
前回お話ししたDPD・DPF・DPRマフラーは、排気ガスに含まれるススを捕まえる装置でした。
そのススは、もともとエンジンの中で燃料を燃やした結果として発生します。
インジェクターの噴射状態が悪くなり、燃料がきれいに燃えにくくなる。
すると、ススが増えることがあります。
そのススは、その先にあるDPD・DPF・DPRマフラーへ送られます。
つまり、
インジェクターの噴射状態が悪くなる
↓
燃焼状態が悪くなる
↓
ススが増える
↓
DPD・DPF・DPRマフラーへの負担が増える
というつながりがあるのです。
前回、
「マフラーが詰まったからといって、マフラーだけに原因があるとは限らない」
とお話ししたのは、このためです。
■ 今回の修理でも、インジェクターを確認しました
先日の【現場ドキュメント】でご紹介したパッカー車でも、DPDマフラー内部に不具合が見つかりました。
その際、部品やディーゼルエンジンに詳しい方から、
「インジェクターの状態も確認した方がいい」
というアドバイスをいただきました。
そこで故障診断機を使って、
燃料を噴射するインジェクター1本1本が正常に働いているか
を確認しました。
その結果、異常は見られませんでした。
そのため今回は、最初からインジェクターまで交換するのではなく、まず必要な修理を行い、その後の車両の状態を確認することにしました。
修理後に正常に作動していることが確認できたため、インジェクターの交換は行いませんでした。
■ 壊れた部品を交換することも大切。でも、それだけではない
もちろん、壊れた部品を交換することは整備士の大切な仕事です。
しかし、現代のディーゼルエンジンは昔と比べて複雑になっています。
一つの不具合が、別の装置へ影響していることもあります。
反対に、症状が出ている部品そのものではなく、別のところに原因が隠れていることもあります。
どうしても判断に迷うことや、決断しきれないこともあります。
場合によっては、お客様に状況をご説明したうえで、考えられる原因をいくつか見積もり、提案しなければならないこともあります。
そして、整備士も人間です。
誤診する可能性もゼロではありません。
だからこそ私は、これからの整備士には、
「部品を交換する技術」と同じくらい、「原因を診る力」が重要になる
と考えています。
■ 分からないときに頼れる「つながり」も大切にしたい
私一人が、すべてのことを知っているわけではありません。
だからこそ、私は人とのつながりを大切にしています。
判断に迷ったときには、その分野の技術や知識に精通した方に相談し、アドバイスをいただく。
そして、自分でも点検し、確認し、判断する。
一人の知識だけで決めつけるのではなく、さまざまな知識や経験を借りながら、より確かな整備につなげていく。
それがお客様にとって、より良いサービスにつながると私は考えています。
■ 燃料系を良い状態に保つことは、とても大切です
インジェクターは、現代のディーゼルエンジンの中でも非常に精密な部品です。
だからこそ、
インジェクターを含めた燃料系を、できるだけ良い状態に保つこと。
これは、現代のディーゼルエンジンを長く安心して使うために、とても大切だと私は考えています。
燃料系の状態を良く保つことは、
インジェクターだけを守るためではありません。
燃料をきれいに燃やす。
ススの発生をできるだけ抑える。
その先にあるDPD・DPF・DPRマフラーへの負担を減らす。
燃料系の健康状態は、その先にあるさまざまな装置にもつながっています。
■ でも、「燃料系を健康に保つ」ってどういうこと?
ここまで読んで、
「じゃあ、インジェクターや燃料系を良い状態に保つには、どうすればいいの?」
と思った方もいるかもしれません。
実は、ここから先がまた面白いところです。
現代のディーゼルエンジンには、
コモンレール
燃圧
噴射補正値
デポジット
など、燃料系を理解するうえで大切な言葉があります。
少し専門的な内容になるので、今回の記事には詰め込みません。
今後、「燃料系の健康を守る」番外編として、できるだけ分かりやすくお話ししたいと思います。
「デポジットって何?」
「故障診断機でインジェクターの何を見ているの?」
「燃料系添加剤には、どんな意味があるの?」
そんなところまで掘り下げてみたいと思っています。
■ 次回は「EGR(排気ガス再循環装置)」について
次回は、
EGR(排気ガス再循環装置)
についてお話しします。
EGRは、一度エンジンから排出された排気ガスの一部を、もう一度エンジンの空気の吸入側へ戻す装置です。
でも、
「せっかく外へ出した排気ガスを、なぜもう一度エンジンに戻すの?」
と思いますよね。
これには、ちゃんと理由があります。
大きく関係しているのが、
燃焼温度とNOx(窒素酸化物)
です。
そしてEGRも、現代のディーゼルエンジンで問題になるススや汚れと深く関係しています。
次回も、できるだけ難しい言葉を使わずにお話しします。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。