――AdBlueを「作動油タンク」に入れてしまう事故について
最近、非常にヒヤッとする故障事例が続いています。
それは
AdBlue(アドブルー/尿素水)を、誤って作動油タンクに補給してしまう事故です。
実はこれ、
弊社のお客様だけでも直近で2件発生しました。
弊社だけで2件あるということは、
日本全国では、同様の事故が相当数起きているのではないかと感じています。
再発防止・注意喚起の意味も込めて、
今回はこの事例を共有します。

■ なぜ起きるのか?
最近のパッカー車(塵芥車)は、
AdBlue(SCR)搭載車が主流になってきています。
その結果、車両には
- 軽油タンク
- AdBlueタンク
- 作動油タンク
と、複数の補給口が存在します。

特に問題なのが、
- 色や位置が分かりにくい
- 忙しい現場での補給
- 「いつも自分がやっている」という慣れ
こうした条件が重なることで、
「まさか」というミスが起きてしまうのです。
● 僕が思う、もう一つの大きな原因
産廃業などで
塵芥車の保有台数が多く、決まった使用者がいない“乗り回し”の現場では、
このリスクが特に高いと感じています。
いつも同じ車を、同じ人が使っていれば、
間違える可能性はかなり低くなります。
しかし、
- 車が日によって違う
- 補給する人も違う
こうした環境では、
ヒューマンエラーが起きる余地がどうしても生まれてしまいます。


■ 作動油タンクにAdBlueを入れると、何が起きるのか?
これは非常に深刻です。
AdBlueは水溶性のため、
作動油系統に混入すると…
- 油圧ポンプ
- バルブ
- シリンダー
- ホース類
油圧系統全体を破壊してしまいます。
最悪の場合、
- 全油圧系分解
- 全洗浄
- 部品総交換
となり、
修理費用は数百万円規模になることもあります。
正直、
「エンジンが壊れた」より、はるかに重いトラブルです。
■ 【弊社の実例】実際に起きたこと
弊社の事例では、
作動油タンクにAdBlueが混入したことに気づかないまま、車両を使い続けてしまった結果、
➡ パッカー(架装部)の作動不良
➡ 最終的に作動不能
という状態に至りました。
前例がなかったため、
故障診断・原因究明に時間を要しました。
点検の流れはこうです
- 油圧ポンプから、ごく僅かな異音
- メイン油圧を測定 → 油圧 0Mpa
- ポンプ取り外し時、配管を外しても
👉 作動油が一切出てこない - レベルフロートは正常なのに、油が出ない
- ドレーンから抜いた油は白濁
ここで
**「尿素混入か?」**と疑い、作動油タンクを点検。
結果、
👉 タンク内サクションフィルターが、尿素の結晶で完全に目詰まりしていました。
実施した修理内容

- オイルポンプ交換
(異音発生=内部破損の可能性が高いため) - 作動油タンク分解・内部洗浄
(尿素は水溶性のため、水洗い+十分な乾燥) - 作動油・カートリッジフィルター全交換
(油路内の尿素・金属粉を完全除去)
これで、
幸いにも復旧しました。
もし尿素や金属粉が
各油圧機器まで回っていたら、
油圧系統全交換になっていた可能性もあります。
■ 再発防止のために、今すぐできること
現場でできる対策は、決して難しくありません。
① 補給口の明確な表示
「AdBlue」「作動油」を
色分け・大きな文字で表示
② 補給作業は“決めた人”が行う
流れ作業・ついで作業にしない
③ 違和感があれば、補給しない
「あれ?」と思ったら一度止める
④ 事故事例を共有する
実際に起きている事実を知ることが、最大の予防です
■ ここからは【AdBlueの基礎知識】
※メカが苦手な方でもわかるように説明します
● アドブルー(AdBlue)の正体
AdBlueは、
- 尿素:32.5%
- 純水:67.5%
でできています。
この32.5%は偶然ではなく、
SCR触媒で最も効率よく排ガスを浄化できる黄金比です。
● なぜAdBlueは結晶化するのか?
理由は主に3つあります。
① 水分が蒸発する
キャップ周辺や注入口で水分だけが蒸発
👉 尿素だけが残り、白い結晶に
② 温度変化に弱い
- −11℃以下で凍結
- 解凍を繰り返すと結晶化が進行
③ 空気に触れる
密閉されていないと、
空気中の影響で固体化しやすくなります。
● 結晶化すると何が起きる?
- インジェクター詰まり
- 配管閉塞
- ポンプ故障
- SCR警告
- 出力制限・始動制限
特に塵芥車は
停止と再始動が多い車両なので要注意です。
● 異物混入は「結晶化を加速」させます
異物は
👉 **結晶の“核(きっかけ)”**になります。
- ホコリ
- 金属粉
- 油分
- 洗剤残り
があると、
尿素がそこに集まり、一気に結晶化します。
ペットボトル補充・じょうご使い回しは
特に要注意です。
● 防止策(プロ目線)
- 専用容器・専用じょうごを使用
- 補充前に注入口をウエスで清掃
- キャップは確実に閉める
- 異物混入が疑われたら「洗浄」ではなく交換判断
■ 塵芥車は「便利」ですが、「繊細」な車です
最近のパッカー車は、
環境性能・安全性ともに大きく進化しました。
その一方で、
ちょっとしたミスが、致命傷になる時代でもあります。
このブログが、
同じ事故を防ぐための注意喚起になれば幸いです。