こんにちは。井野口自動車の井野口です。
今日は、少し先の未来の話を書いてみようと思います。
街のパッカー車が、直せない時代
弊社は、群馬県館林市でパッカー車、いわゆる塵芥車を専門に整備している会社です。
館林の地で55年以上、地域のゴミ収集車を見続けてきました。
その現場から、最近少しずつ感じていることがあります。
整備工場が、足りなくなってきている。
弊社でも、整備の予約が3週間先まで埋まることが増えてきました。
近隣の整備工場さんと話をしていても、同じような声を耳にします。
これは、私だけの感覚ではなさそうです。
日本自動車整備振興会連合会の調査では、自動車整備士の数は減少傾向にあります。
また、帝国データバンクの調査でも、自動車整備業者の休廃業・解散は増えており、2024年度は過去最多となりました。
「整備工場が足りない」
現場で感じているこの危機感は、数字にも表れ始めています。
「整備待ち難民」という言葉
私は最近、こんな言葉を頭の中で使うようになりました。
整備待ち難民
パッカー車が故障しても、すぐに直してくれる整備工場が見つからない。
見つかったとしても、入庫まで数週間待ち。
その間、代車もない。
契約先との約束が守れない。
収集予定に影響が出る。
最悪の場合、街にゴミが残ってしまう。
こういうことが、これから日本のあちこちで起きてしまうかもしれない。
私は、現場にいる一人として、そう感じています。
パッカー車は、普段あまり目立つ車ではありません。
でも、街の生活を静かに支えている、とても大切な車です。
止まると、困る人がたくさん出ます。
「困った」が、すぐ目に見える形で表れる車です。
だからこそ、壊れてから慌てるのではなく、壊れる前に気づくことが、これからますます大切になると考えています。
整備士は、すぐには育たない
「整備士を増やせばいい」
「整備工場を増やせばいい」
そう言えれば話は早いのですが、現実はそう簡単ではありません。
整備士という仕事は、経験と知識の積み重ねが必要な仕事です。
特に、今のトラックのディーゼルエンジンは、昔のエンジンとは大きく変わりました。
排ガス規制への対応により、構造は複雑になっています。
電子制御も増えました。
DPF、DPD、DPRといった排気ガス浄化装置のトラブルもあります。
故障の原因を見つけるには、診断機のデータを見る力と、現場経験の両方が必要です。
部品を交換すれば終わり、という単純な話ではありません。
車の状態を診て、データを読み、音やにおい、使われ方まで考える。
そのうえで、なぜそうなったのかを判断する。
そうした「診る力」は、すぐに身につくものではありません。
そして、整備士を目指す人も減っています。
整備士不足は、これからの自動車業界にとって大きな課題です。
「人を増やせば解決する」だけでは済まない構造が、業界の背景にあります。
私に何ができるかを考えている
では、整備士として25年以上、現場を見てきた私に何ができるのか。
最近、そのことをよく考えています。
私がずっと現場で見てきたものがあります。
それは、エンジンが壊れる前に発している小さなサインです。
警告ランプが点く前。
完全に故障する前。
お客様が「なんとなく調子が悪い」と感じる前。
車は、実は小さな変化を出していることがあります。
診断機の数値。
排気の状態。
エンジン音。
再生の回数。
差圧の変化。
インジェクターの補正値。
使われ方や、過去の整備履歴。
そうした情報を重ねていくと、壊れる前の兆候が見えてくることがあります。
もちろん、すべての故障を事前に防げるわけではありません。
機械である以上、突然壊れることもあります。
それでも、壊れる前に気づける故障はあります。
早めに手を打てるトラブルもあります。
大きな修理になる前に、負担を減らせるケースもあります。
この25年以上の現場経験を、私の頭の中だけに閉じ込めておくのは、もったいない。
最近、そう思うようになりました。
大事にしたいのは「予防整備」という考え方
具体的に何を形にしていくのか。
それは、もう少ししっかり整えてから、改めてお伝えしたいと思っています。
ただ、今、私が大事にしたい考え方だけは、ここに書いておきたいと思います。
1. 壊れてから直すのではなく、壊れる前に診る
これは、人間の健康診断と同じです。
倒れてから治療するのではなく、悪くなる前の小さな変化に気づく。
パッカー車にも、そうした予防整備の考え方を持ち込みたいと思っています。
「まだ動いているから大丈夫」ではなく、
「今のうちに見ておこう」
「大きな故障になる前に確認しておこう」
そういう考え方が、これからのパッカー車整備には必要になると感じています。
2. 経験を、自分の中だけに閉じ込めない
私の25年以上の経験は、私一人のものではなく、業界のためにも活かしていきたい。
若い整備士が、判断に迷ったとき。
お客様が、自社の車両状態を知りたいとき。
現場の方が、日々の点検で何を見ればいいのか知りたいとき。
そんな場面で、私が現場で積み重ねてきた知識や判断基準を、少しでも役立てられる形にしていきたいと思っています。
経験を、感覚だけで終わらせない。
現場で使える知識として、残していく。
それも、これからの私の大切な役割だと感じています。
3. 現場を止めない
私の一番の願いは、ここです。
パッカー車の現場が止まらないこと。
街のゴミ収集が止まらないこと。
パッカー車を使う会社が、お客様との約束を守れること。
決まった日に、決まった時間に、当たり前に収集が行われること。
そして、その会社の信用が守られること。
パッカー車は、ただの車ではありません。
地域の暮らしを支える仕事車です。
止まってしまえば、会社も、現場も、街も困ります。
だからこそ、私たちは「直す整備」だけでなく、「止めないための整備」にも力を入れていきたいと考えています。
最後に
「整備待ち難民」という言葉を使うと、少し重い話に聞こえるかもしれません。
でも、私はこの話を、暗い気持ちで書いているわけではありません。
むしろ、この課題があるからこそ、25年以上現場を見てきた私にできることがある。
そう感じています。
整備士不足。
整備工場の減少。
車両の複雑化。
パッカー車を止められない現場。
こうした課題は、すぐに解決できるものではありません。
それでも、館林からできることはあると思っています。
一台一台の状態を丁寧に診ること。
壊れる前の小さなサインに気づくこと。
お客様に分かりやすく伝えること。
そして、現場を止めないための整備を積み重ねていくこと。
これからも、地域のパッカー車を止めないために。
そして、塵芥車業界の未来を少しでも良くしていくために。
館林から、一つずつ取り組んでいきます。
参考データ
- 日本自動車整備振興会連合会「自動車特定整備業実態調査」
- 帝国データバンク「『自動車整備業者』の倒産・休廃業解散動向」
- 厚生労働省「職業情報提供サイト job tag|自動車整備士」
- 国土交通省「自動車整備士の確保・育成に係る課題とこれまでの取組」